密かに忍び寄る日本語フェイクニュースウェブサイト

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日本語でもフェイクニュースウェブサイトが増えつつある?

ここのところ気になることがあったので簡単にメモしておきます。テーマの性質上具体的な参照ができないため曖昧な記述になることを予めお詫びします。

最初にお断りしておきますが,現実的にはウェブの姿は検索エンジンを通してしか知ることができません。そのため,本稿は正確には「Google 検索の検索結果に表示されることが増えたように感じられる」ことを指摘するものです(もっとも,WHOIS 情報を見る限り,見かける多くの日本語フェイクニュースウェブサイトはドメインの登録日が 2020 年以降のようです)。また,そもそも手段がないため,包括的・定量的に評価することもできません。

さて,気になったことというのは,米国で問題になったフェイクニュースウェブサイトそっくりのものが日本語ウェブ上で増えつつあるのではないか? ということです。

フェイクニュースウェブサイトとは

フェイクニュースウェブサイト fake news website1 とは,その呼び名の通り「偽」のニュースを掲載するウェブサイト,特に政治的な目的から意図的に偽情報を流布するウェブサイトのことです。

広告掲載,SNS での拡散,検索流入(SEO)といった界面を持ちます。運営・流布の仕組みやテクニック自体はアフィリエイト目的のサイト(特にいわゆるトレンドブログ)と同様ですが、サイトから収益をあげる必要はなく,むしろ外部からの資金注入によって運営されているため,独特の性質を持っています。

よく知られているとおり米国では既に大きな問題になっており,ロシア政府系とみられる勢力が大規模な選挙介入を繰り返していることが知られています。米国におけるフェイクニュースサイトの最近の動向については後述します。

フェイクニュースウェブサイトの特徴

私の知る限り,フェイクニュースサイトには一般に以下のような特徴が見られます。

  • 自らの立場を明らかにしない。明確な攻撃をするかわりに,情報の中に偽の「事実」を混ぜる。
  • 発行者の情報が存在しない。偽の氏名や所在地が使用されている場合がある。メールアドレスがあっても Gmail などフリーメールの場合が多い。
  • 事実と合致する記事や教養や趣味についての政治的でない記事を多く含む。SEO 手法が洗練されている。
  • 失効ドメイン名が流用されている場合も多い。かなり信頼のある(つまり高額で取引される)失効ドメイン名も使われており,大きな資金力が示唆される。
  • 出典は付されていないか,ごく少数の文献に大きく依存している。
  • 広告は少ないか,まったくない。

端的に言れば,「偽情報の流布が目的であること」「発行者が高度に秘匿されていること」の2点が特徴であると言えるでしょう。

日本語サイトの場合,以下が加わります。

  • 記事は機械翻訳のぎこちない文章であることがほとんどである。
  • サイト自身が主張する起源(日本やドイツなどの“独立メディア”を名乗る場合が多い)にかかわらず,米国に関する記事が多い。
  • 海外のレジストラが利用されている場合や,WHOIS 情報が秘匿されていない(おそらく偽情報が使われている)場合が多い。

日本ではこれまでも宗教組織などがバックにあるプロパガンダサイトが多くありましたが,内容にクセがあるため一般に流布するには至っていませんでした。また,少なくとも教団自身がバックにいるサイトは背後関係を完全に秘匿することは意図していなかったため,ある程度詳しい人にとっては見抜くことは容易でした。

ところが最近になって目立つようになってきたこれらのフェイクニュースサイトは,多くの人に受けられるよう注意深く“脱臭”されています。現在は機械翻訳風の記事が多いですが,おそらく少なからぬコストをかけて書かれており,専門的な(事実に合致する)情報も混ざっているため,アフィリエイト目的のトレンドブログよりも良さそうな印象さえ受けます。

人の目で見てもそうなのですから,検索エンジンを騙すのは容易です。検索ボリュームの大きいキーワードで一位に来ている場合も多く見られます。

そして,発行者にたどり着き得る情報はやはり注意深く秘匿されています。米国における事情から考えると背後にある組織体も公然活動をしていない場合が多いと考えられるため,発行者を特定するのは非常に困難であるといえます。

以下は疑わしいウェブサイトの一例です。

疑わしいウェブサイトの例

  • 国内の分野特化型ニュースサイトで使われていた失効ドメイン名が流用されており,Google News にも表示されてしまっています。特筆すべき点として,日本の企業に関する情報が比較的多く掲載されています。
  • コンテンツはいずれも非常に低品質な機械翻訳によるものです。脈絡のない部分があるため,文章自体が自動生成の可能性も否定できません。
  • 政治的・社会的な記事が主ですが,エンターテインメントに関する記事も混在しています。
  • 所在地として都内の住所が表示されていますが,ウェブ検索および Google Street View で見た限り実在は確認できませんでした。
  • 記事の投稿者名としてありがちな日本人名が表示されていますが,おもしろいことに,アイコンとしては白人男性の写真(低解像度のため,自動生成された画像である可能性もあり)が使用されています。Google 画像検索したところ,他の複数の疑わしいウェブサイトで同じ画像が使用されていることを確認できました。
  • Whois 情報ではありがちな日本人名が表示されていますが,姓名の登録が逆であるなど,これも実在性は疑わしいと思われます。
  • 連絡先は GMail だけであり,メールアドレスにはありがちな英語人名が使われています。
  • 確認時点で広告は掲載されていませんでした。

なぜ日本語のものが増えているのか?

私はもともとウェブのスパムに関心があり,疑わしいサイトを見つけたら素性を調べてみるという変な趣味があります。

私が日本語フェイクニュースウェブサイトが増えつつあるとの認識に至ったのは,ここ数日の出来事である以下のトピックについて日本語で検索していて,従来のスパムとは異なる,米国の政治的なフェイクニュースウェブサイトに酷似したウェブサイトを多数発見したためです。

  • スエズ運河における EVER GIVEN 号の事故
  • アルケゴス・キャピタル・マネジメント(ビル・フアン氏)破綻

関係があるかはわかりませんが,いずれも海外の出来事でありつつ,日本も深く関係しています(前者は船舶の法的な所有者が日本の会社,後者は日本の証券会社に巨額の損失が発生)。

これは完全な想像ですが,米国でフェイクニュースウェブサイトを運用している勢力が日本への進出を始めたのではないかと思っています。

教養・趣味分野の記事は米国文化に関連するものが大半であることや,英語の間投詞や擬音語が音訳されて使われている場合があることがその理由です。

米国のフェイクニュースウェブサイトは当初大手メディアと紛らわしい名前で展開することが多かったのですが,SNS 等が対策を強化しつつあることもあり,現在はローカル新聞・ローカルニュースサイトに偽装する例が増えています。

米国外でも,英語話者の多いフィリピンでは非常に多くのフェイクニュースウェブサイトが暗躍しているそうです。

分散化には,実体をつかみにくくする,リスクヘッジをする,批判者の目を避けるといった目的があるものと考えられます。

その一環として,日本への展開も進めているのかもしれません。

それとは別に,米国の陰謀論がなぜか日本で定着しつつあることが観測されています。

実際,そのようなイデオロギー的背景から日本人によって運営されているとみられるサイトも見られました。

陰謀論の伸張が続けば,日本語ネイティブによって書かれるフェイクニュースウェブサイトは増加していくものと見られます。

フェイクニュースの波に備えるために

もともと日本語ウェブは SEO 上のテクニックに弱い傾向があります。これはおそらく,言語特性上の技術的困難,市場としての関心の薄さ,そしてユーザの情報リテラシの低さといった問題が複雑に絡み合った問題なのでしょう。

記憶に新しい DeNA・WELQ 事件では,Googleが日本における問題に対応するために特別なアップデートすることによってようやく一定の沈静化に至りました。

この経緯を考えると,日本におけるフェイクニュースウェブサイトの氾濫は米国より更に致命的な結果をもたらす可能性があります。

まずは「フェイクニュース」そして「フェイクニュースウェブサイト」を適切に定義し,広く啓蒙することが急務であると考えます。先述のように,現代的意味におけるフェイクニュースが単なる誤報と異なるのはもちろん,従来のプロパガンダにはない洗練された手法を用いています。検索エンジンや SNS といったプラットフォーム事業者の責任も問われるべきです。コンテンツの提供に際してなんらかのコントロールをする以上,そのコントロールがなるべく適切なものとなるよう常に対応を続けるべき責任があります。

ユーザとしてできる対策にはどのようなものがあるのでしょうか。

検索して見つけた記事を読むときは,つねに情報のソースを確認しましょう。残念ながら,高度な専門知識があるのでもない限り,権威あるソース以外から有用な情報を得ることはほとんど不可能です。ウェブ上の雑多なウェブサイトを読む場合は,その出典に注意を払いましょう。私がなるべく出典・参考文献を付すのもそれが理由です。

最も重要なのは,フェイクニュースである可能性を排除できない情報の拡散に協力しないことです。影響を与えることになるのはそのリンクを辿って読んだ人だけではありません。SNS でのシェアやブログ等でのリンク掲載はそのサイトに SEO 上の力を与え,検索結果で上位に表示されやすくなります。さらに言えば,ちょっとした軽い話題についての記事であっても,そのサイトがどのようなサイトであるのかをよく確認した上でシェアするようにするべきです。軽い話題での被リンクが同じサイトで公開されているフェイクニュース記事の SEO に貢献する場合があるためです。

とはいえ,対策の困難さがフェイクニュースウェブサイトの恐ろしさです。米国のウェブと民主主義は今も混乱の中にあります。自分には関係のない話だと思わず,一人ひとりが自覚をもって毅然とした対応を取ることが必要です。

  1. やや冗長の感はありますが,本稿では英語での一般的な表記にあわせて「フェイクニュースウェブサイト」の表記を採用します。日本語では他には「偽ニュースサイト」などと呼ばれることがあります。

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