Flash Player の死に寄せて

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アドビは2020年12月31日でFlash Playerをサポートを終了するため、2021年1月12日以降、Flash PlayerでのFlashコンテンツの実行をブロックします。すべてのユーザーの皆様にはFlash Playerを直ちにアンインストールし、ご自身のシステムを保護することを強く推奨いたします。

Adobe Flash Player が今日でサポート終了になります。

数ヶ月前から,1 月 12 日以降は実行さえできなくするコードまで追加されていたそうです。

これもこれでどうかとは思いますが,今の Adobe の力で,かつて広く普及して今でもまだ各所に残っている Flash Player を速やかに滅ぼすにはこれくらいしかないというのはあるのでしょう。

そう,Flash はかつてデファクトスタンダードとして確固たる覇権を握っていました。.swf の Flash 動画やゲームが人気であったのはもちろん,動画サイトのプレーヤも Flash で実装されていましたし,(当時から批判されていたものの)UI 要素に Flash が使われていることも珍しくありませんでした。

私の Flash についての思い出を少し振り返ってみたいと思います。

実のところ,私には必ずしも Flash との深い思い出があるわけではありません。一応いわゆる Flash 世代にあたるはずですが,物心付いた頃には黄金時代は過ぎていましたし,中学生になるまで家に PC 環境がなく,その後は間もなく GNU/Linux や PDA に傾倒していったため,“普通の” PC ユーザであった時期が非常に短いものだったのもあるかもしれません。

とはいえ,思い出が何もないわけでは,もちろんありません。

ご多分にもれず,私が Flash と出会ったのは小学校のコンピュータ室です。当時の私はキーボードもろくに打てず,指示されたとおりマウスで「一太郎スマイル」を操作することさえおぼつきませんでした。

たしか自由に操作していい時間が少しだけあって,そういうときに誰かが「おもしろ Flash」の再生をはじめたりするわけです。覚えていませんが,ペリーとか千葉滋賀佐賀とか,そういう有名なものでしょう。これを多く知っている人はちょっとしたヒーローで,モニタの周りには人だかりができていました。

しかし,私は当時そのような Flash にそんなに興味がありませんでした。テレビも漫画もあまり好きではなかったタイプで,それらと同じような内容の,あるいは完全な引き写しである人気 Flash 作品に関心を持てなかったのです。

私が Flash と向き合い始めるのは中学校に入ってからです。そのころ親が Windows XP の PC を購入し,同時に ADSL も導入されたことで,いよいよ家で PC を使うことができるようになったのです。それまでも一応 Windows Me の PC がありましたが,あまりに不安定であったうえ,なにより回線が従量制のダイアルアップのみだったので,ほとんど触れることはありませんでした。

PC を勝手に使わないように言われていましたが,親にも知識がほとんどないので,誤魔化したり,制限を回避したりするのは難しいことではありませんでした。夜な夜な PC をいじることであっという間に基本操作を身に着けた私は,やがてウェブの世界に入り浸るようになりました。そうそう,モデムをよく親に隠されましたね......

そうしてみると,Flash の世界にも大きな広がりがあることに気づきます。都市伝説仕立ての作品,個人の葛藤をぶつけたような作品,さらには数多のインタラクティヴな Flash ゲームも商業媒体にはない魅力です。この頃には Flash のリストを掲載したサイトをあちこち見て回っていました。

作る方にも興味がありましたが,作成ソフトの Adobe Flash はとてもじゃないが買えず,通販で古いバージョンを探すという発想もなかったため,Suzuka を試してみてすぐに挫折したことを覚えています。

もう一つ印象深いソフトが HugFlash です。これは .swf に組み込まれているメディア要素を抜き出すもので,一瞬だけ挿入された画像をじっくり眺められたり,意外な発見があるものでした。

また,当時は Youtube のような動画サイトもよく見ていました。先述の通り,当時は動画サイトといえばどこも Flash が必須でした。たいていの動画の画質は VGA やその程度でしたが,当時の私には何もかもが新鮮でした。ネットラジオなどにも Flash を採用しているものが多かったように記憶しています。

00 年代後半になると JavaScript 等による代替技術が注目を浴びるようになり,2008 年のHTML5 ドラフト公開と前後して大手プラットフォームはこぞって Flash の排除を急ぎ始めたため,レガシーと見なされるようになった Flash は急速に衰退を始めることになります。この頃には私にとっても Flash は邪魔な存在となっていて,インストールしないままにすることも増えていました。

当時はスマートフォンや ARM ベースの PC が急速に普及を始めた時期で,Flash はもはや足かせでしかありませんでした。なにしろ,Flash の対応プラットフォームが限られているせいで,こうした便利なデバイスでは利用できないサイトが多すぎたのです。Adobe による Flash Player のハンドヘルド対応は遅れに遅れ,かろうじて「Flash Player Lite」なる,PC 版 Flash Player との互換性を欠く使えないソフトウェアが提供されているだけでした。

実のところ当時のデバイスの性能では PC 版と同一の Flash Player・Flash アプリケーションを動作させることができても実用になるかは怪しく,むしろ使い方の問題も大きかったかとは思いますが,ともかくスマートフォンでの利用を前提に HTML5 で新規に書かれたアプリケーションがクロスプラットフォームで Flash と同じような機能を実現した事例が増え始めると,Adobe の胸三寸で左右されるプロプライエタリフォーマットである Flash が悪者になるのは無理のないことでした。

10 年代に入って HTML5 の普及は決定的になり,2014 年 10 月 28 日に HTML5 が正式に勧告されました。最終的に Flash の運命を決したのは,2015 年に Youtube が HTML5 プレーヤをデフォルトに切り替えたことでしょう。2015 年末には作成ソフトの Adobe Flash Professional が Adobe Animate に改称され,Adobe 自身も Flash を見限ったことが明らかになりました。2017 年には Flash Player の EOL も発表され,今日,ついに Flash はその四半世紀にわたる歴史の幕を下ろすわけです。

これは良い変化だったのでしょうか? 私は,どちらかというとそうだろうと思います。Flash や,プロプライエタリのデファクトスタンダードという存在自体も,既に限界なのは明らかでした。これは 1996 年に生まれたフォーマットである Flash それ自体に内在する限界でした。HTML5 も問題がないわけではありませんでしたが,他のプロプライエタリフォーマットが普及する悪夢を考えれば,ほとんど理想的な方向に進んだと言えるのではないでしょうか。懐古される Flash 文化も,テレビや漫画の既存コンテンツに乗っかった,下手すると音声や映像をそのままコピーしたものが多いというのが現実でした。Flash 文化のマッシュアップカルチャーは,多くの人の創造性を引き出した反面,テキストサイト時代に重視されていたオリジナル性が軽視されることにつながり,作った人ではなく上手くコピーした人が評価される現在のウェブ文化にも通底しているという側面は否めません。

しかし,Flash の衰退により失われたものも多くありました。HTML5 仕様は汎用的な反面,Adobe Flash のような特定の用途に特化したグラフィカルな統合ソフトを欠くため,制作の間口は狭くなりました。当初後継と目された HTML5 の利用には技術的な背景のある程度の理解が必須であり,動画やブログ,SNS といったやや性質の異なる媒体がその隙間を埋めています。これは当然,媒体の性質による文化の変化を伴わないわけにはいきません。また,それまでは Flash 動画として作られていたようなコンテンツの多くは通常の動画として公開されるようになったので,そのようなコンテンツについてはデータの構造性が却って失われたと言えます。さらに,Flash の衰退によるコンテンツの入れ替わりは,結果的に 10 年代のウェブの商業主義化を強化することになりました。無名の個人であっても純粋な創造意欲のためにコンテンツが作られることは珍しくなり,広告収入とスポンサーに目配せしたものばかりが作られる時代になったのです。

とはいえ,Flash 衰退によって目立つようになった問題も,HTML5 や動画という媒体それ自体の問題ではありません。たとえば,高度なツールがスマートフォンのアプリケーションやウェブアプリケーションとして手軽に利用できるようになってきています。本質的には PC が必要だとは思いますが,ともかく多くの人へ間口を広げる効果があります。ハードウェアの高性能化と AI 技術基盤の整備により,machine-readable とは言えないデータも構造的に利用できるようになりつつあります。さらに,市場の飽和により,10 年代に見られたウェブのゴールドラッシュは一段落しつつあります。このような背景のもと,また創造的な作品が多く世に出るようになることに期待できるのではないでしょうか。

ところで。Flash Player は死にますが,Flash というフォーマット自体はまだしばらく延命できるかもしれません。Flash Player の EOL を受けて,互換プレーヤの開発がにわかに活況を呈しているのです。

Internet Archive の Flash アーカイヴに採用されたことで注目を浴びているのが Ruffle です。Internet Archive では Flash をクライアントごと配信することでプラグインのインストールを不要としています。互換性はまだ不十分であるらしいものの,Flash 動画だけではなく,簡単なものであればインタラクティヴなゲームも動作しています。

もうひとつは Lightspark です。こちらも開発途上ですが,活発な開発が続いています。

2つとも FLOSS であり,開発への参加や寄附の形での支援を必要としています。もし Flash とその文化があなたにとって思い出深いものであるなら,支援を検討してみてください。

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